一般社団法人寒地港湾空港技術研究センター COLD REGIONS AIR AND SEA PORTS ENGINEERING RESEARCH CENTER

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基 調 講 演

充実した航路生かせ ~欧米とアジア結ぶ拠点に~
井 上  聰 史 氏
井上聰史氏
いのうえ・さとし:東京大工学部卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。運輸省第4港湾建設局長、国際港湾協会事務総長、国際港湾協会協力財団理事長などを歴任し、2010年から現職。
 グローバル化の進展で、世界の海上輸送量は1980年からの30年間で、2.3倍に増えました。原材料の段階から製品が消費者に届くまでの流れのサプライチェーン(供給網)が、世界中に広がったためです。
 東日本大震災の際、日本の自動車メーカーは、国内工場だけでなく海外工場の生産も休止しました。グローバル化の時代は、このようなリスクが伴います。そのため、世界中のメーカーは昨今、サプライチェーンの見直しを頻繁に行っています。そうなると、これまで使っていた港湾を、来年から別の港に替えるといったメーカーも出てきます。
 港湾はこれまで、岸壁やターミナルを立派に整備し、効率的なサービスを提供しさえすれば、多くの船舶が寄港してくれると考えられてきましたが、そのような時代は終ったのです。
 1995年以降の先進国の国内総生産(GDP)の伸び率を見ると、最も低いのが日本。日本企業が90年代以降、海外進出の動きを進めているためです。しかし、欧州の港湾関係者と話すと、みな、日本の地理的条件をうらやましがっています。欧州にとって、経済が伸び盛りのアジアは地球の裏側に位置しています。国際的に見て、日本のポテンシャルは非常に高い。アジアの活力を日本に取り込むことが何より重要です。
 アジアとの間では、観光客を呼び込むのはもちろん、日本の高質な工業製品や農水産品を輸出したり、その逆で、アジアで造られた工業部品を日本で加工し、欧州や北米に輸出したりすることも期待できます。
 また、世界の高品質な商品を日本に集め、アジアの中高所得者向けに輸出することも重要。フランスの化粧品メーカーが、アジア向けの製造拠点を日本に開設するという動きもあります。このような動きを、もっと加速させたいものです。
 そのために、日本の港湾が取り組むべき戦略が三つあります。一つ目は港周辺にロジスティクスセンター(物流拠点)を設けること。アジアに魅力を感じている欧米のメーカーや流通業の物流センターなど、多用な産業を集積させることが重要です。二つ目は、国内のサプライチェーンを強化すること。鉄路や陸上輸送など、後背地への交通アクセスの強化が一例です。三つ目は、アジア各国への直行便の航路を設けることです。
 苫小牧港には既に充実した航路がある。市内で農産品の加工をして付加価値を高めるなどし、このネットワークに載せればいい。日本のほかの港ではまねできない取り組みです。韓国や中国との間も定期コンテナ航路で結ばれています。韓国や中国向けの商品開発を進めれば、さらなる輸出拡大も期待できるでしょう。