一般社団法人寒地港湾空港技術研究センター COLD REGIONS AIR AND SEA PORTS ENGINEERING RESEARCH CENTER

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パネルディスカッション

小磯
 苫小牧港の50年を振り返り、歴史や現在の課題について、どのように考えておられますか。
岩倉
 開港した1963年から現在まで、港の取扱貨物量の増加のカーブと苫小牧市の人口増加のカーブはほぼ一致しています。港の歩みは苫小牧の歩みとイコールです。まちが一致団結して港を建設した経緯があって今がある。今後は、新千歳空港と苫小牧港の「ダブルポート」の機能強化に対し、どのように向き合っていくかが、苫小牧の次なる成長戦略と感じています。海外へのアピールも、どう戦略化して取り組めるか考えています。
 北海道の港は輸入中心ですが、苫小牧港は外に出すものも着実に増やしてきたという強みがあります。苫小牧には多彩な形の産業があり、道内経済に対し、大きな役割を果たしています。また、東日本大震災の際は、苫小牧港から支援物資や自衛隊員が被災地に向かいました。太平洋と日本海の両方に航路があることや、自衛隊駐屯地に近いということも含め、バックアップ拠点の機能も今後の港の役割を考える上で大きな要素でしょう。
藤田
 苫小牧港の機能拡充と地域経済の発展の歴史を考えると、物流の利便性の向上が経済を活性化することがよく分かります。開港後の歴史をたどってみると、製造業の集積、フェリー航路の充実、石油備蓄基地の立地などと続きます。今では自動車産業の進出によって、工場近くの沼ノ端地区は、若い従業員さんたちがどんどん住宅を建て、道内有数の人口増加地域になっています。苫小牧経済も港の発展とともに歩んできたのです。
大西
 10年前、女性の視点を取り入れた市民団体「女性みなと街づくり苫小牧」を設立しました。行政関係者が口々にたたえる素晴らしい港がありながら、なぜ一般市民の組織がないのかと疑問に思ったのがきっかけです。みんなでJR苫小牧駅から西港区まで歩く活動に取り組んだ際は、歩道のない地域があったり、ごみが落ちていたりと問題点を発見し、改善につなげるよう努力しました。幼稚園児に港で絵を描いてもらって絵画展を開いたり、港を花で飾ったりする活動にも取り組んでいます。工夫して、市民に足を運んでもらえる港にしたいですね。
小磯
 まちは港があるだけで発展するわけではなく、苫小牧の場合はきちんとした総合的な基本計画があり、産業にも結びついて発展したということが分かりますね。港の発展の歴史を、今後、未来にどうつなげるべきでしょうか。
 北海道は海外からも注目されています。アジア各国は道産食品に注目しており、北海道ブランドも浸透しつつあります。苫小牧港は、(北極海経由で欧州とアジアを結ぶ)北極海航路の可能性を考えると、欧州にも近く、今後は農産品の輸出拡大も期待できるのではないでしょうか。
黒田
 来戦略を考えると、北極海航路をにらみながらも、ダブルポートというキーワードが気になります。新千歳空港の航空貨物と、苫小牧港の海上貨物の両方を扱える物流の拠点を、千歳市と苫小牧市の間の鉄道沿線、例えば、駅の近くなどに設置してはどうでしょうか。
藤田
 港は近年、公園や海岸も整備され、市民に親しまれています。今年夏の開港50周年記念イベントには多くの人が来場し、港でイベントを開くことへの可能性を感じました。ですが、港を象徴するような歌がないのがさみしいですね。誰か、「港町ブルース」のような曲を作ってくれればうれしいのですが。カジノを含む統合型リゾートも、ダブルポートのある苫小牧に誘致したいと運動しています。
大西
 苫小牧は漁業で生まれたまちです。苫小牧漁協の女性部は、まちのPR活動を頑張っています。浜の元気はまちの元気です。新たな魅力をつくることも素晴らしいことですが、今ある魅力をアピールすることも大切だと感じます。今後、漁港区で女性部などによる食堂を開き、ホッキ貝など、身近な食文化を伝える拠点にすれば、全道から人が集まるかもしれません。物流だけでなく、人の流れも考えたい。今ある魅力を生かすことも必要と感じます。
小磯
 苫小牧港のような、フェリー航路が充実し、人の出入りの多い港は、ほかの港から、うらやましがられています。身近な魅力を味わってもらうための取り組みは大切です。
岩倉
 港が物や人の出入り口でしかないと考える時代は終わりました。人口構成も変わっていく中、過去の延長で今後のことを考えても意味はありません。今後の物や人の流れについて、どのように考え、まちづくりにつなげていくのか、今日は重要な助言をいただきました。課題もさまざまありますが、港の100周年に向け、まちぐるみで港に向き合い、未来の市民にとって、もっと元気な苫小牧市を残したいですね。
小磯 修二氏
小磯 修二氏
こいそ・しゅうじ:京都大法学部卒業後、北海道開発庁(現国土交通省)入庁。道開発庁企画調整官などを経て、1999年、釧路公立大教授、2008年同大学長に就任。12年から現職。
岩倉 博文氏
岩倉 博文氏
いわくら・ひろふみ:苫小牧市出身。立教大経済学部卒業。衆院議員、会社役員などを経て、2006年から現職。
辻  泰弘氏
辻  泰弘氏
つじ・やすひろ:東京都立大経済学部卒業後、道庁入り。道経済部次長、株式会社苫東社長などを経て、2013年4月から現職。
黒田 勝彦氏
黒田 勝彦氏
くろだ・かつひこ:京都大工学部卒業後、同大助教授、神戸大教授などを経て、2006年から現職。国土交通省交通政策審議会港湾分科会会長も務める。
藤田 博章氏
藤田 博章氏
ふじた・ひろあき:慶応大法学部卒業後、日本レイヨン(現ユニチカ)を経て、フジタ産業入社。78年からフジタコーポレーション社長。2006年から苫小牧商工会議所会頭。
大西 育子氏
大西 育子氏
おおにし・いくこ:市民団体「女性みなと街づくり苫小牧」を2003年に設立。06年から北海道みなとまちづくり女性ネットワーク会長を務める。食品製造販売、はすかっぷサービス社長。