一般社団法人寒地港湾空港技術研究センター COLD REGIONS AIR AND SEA PORTS ENGINEERING RESEARCH CENTER

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ザ・シンポジウムみなとin札幌【ダイジェスト】

クルーズ客船 地域振興に
 道内港湾の活用を通じた観光戦略を考える「ザ・シンポジウムみなとin札幌」(北海道経済連合会などでつくる実行委主催)が11月20日、札幌市中央区の札幌全日空ホテルで開かれた。クルーズ客船運航の世界大手、米国プリンセス・クルーズ社の日本法人カーニバル・ジャパン(東京)の木島榮子代表取締役が「プリンセス・クルーズから見た今後のクルーズ振興」と題して基調講演した。シニア層を中心にクルーズ人口は一段の増加が見込まれ、道内経済を活性化する起爆剤になりうる。パネル討論では、室蘭工業大の古屋温美准教授をコーディネーターに、道内外の専門家らが北海道に寄港するクルーズ客船を増やすために必要な取り組みについて話し合った。

基 調 講 演

充実した航路生かせ ~欧米とアジア結ぶ拠点に~
木 島  榮 子 氏
木島榮子氏
きじま・えいこ:慶応大卒。海外専門の旅行会社で商品企画を担当、添乗員としても世界各国を回る。クルーズ客船ツアーの販売会社に転じ、12年から現職。
 世界のクルーズ人口は2100万人もいますが、欧米で大型客船の新造が続き、供給過多に陥っています。新たな市場を開拓しようと、プリンセス・クルーズ社は2013年から日本発着クルーズを始めました。
 クルーズ客船に乗る日本人の平均年齢は、およそ65歳。生活が安定している人が多い年代で、集客の可能性は高い。加えて、日本は観光地が多く、外国人にとっても魅力的なフライ&クルーズ(飛行機と客船を組み合わせた旅行)を提供できると判断しました。
 今年は「サン・プリンセス」(乗客定員2020人)と「ダイヤモンド・プリンセス」(同2670人)の2隻を投入、道内外でツアーを行いました。小樽発着で道内とサハリンを周遊する7泊8日のクルーズも企画、6月から9月まで12週続けて運航し、函館や室蘭、釧路、網走を回りました。
 小樽を発着地に選んだのは、新千歳空港からのアクセスの良さに加え、円滑な乗下船や出入国管理が可能だからです。観光地としても魅力的でした。他の寄港地を決める際にも、こうした条件を考慮しました。
 寄港地では地域住民との交流はもちろん、経済波及効果の面でも貢献できたと思います。乗客や乗組員が寄港地1カ所で使う消費額は1人当たり1万~2万円。燃油や食料の調達だけでなく、飲食店や観光施設の増収に寄与しました。
 一方、運航を続ける中で、課題も分かりました。港は貨物船と一緒に使うので、希望通り接岸できないことも。乗客を中心市街地に運ぶ観光バスの確保が難しいケースも出ました。
 本州からお客を呼び込むフライ&クルーズを普及させたいです。格安航空会社(LCC)を使った商品開発を考えなければいけません。海外からの直行便も、どんどん受け入れてほしい。クルーズ客船で道内観光を国際化するためには、欠かせない取り組みです。
 また、今年、道民のクルーズ参加は想定の半分以下でした。クルーズ客船の旅の楽しさを知ってほしい。集客に苦戦したこともあり、来年はサン・プリンセスは道内に来ませんが、ダイヤモンド・プリンセスは来ます。市民見学会などを通じ、クルーズ客船を身近に感じてもらいたいです。
 今後、日本のクルーズ市場は、中国をはじめとしたアジア市場の影響を大きく受けるでしょう。今は中国発着だと沖縄や九州までしか来ていませんが、クルーズ人口は増えており、2~3年後には道内にも今以上のクルーズ客船が訪れるようになるとみています。
 私たちも大型客船だけでなく、小型、中型客船で道内の離島などに向かうツアーを組めないか検討中です。各港で受け入れ態勢を整えていただきたい。北海道の魅力が国内外で広く知られるよう、私たちも努力します。来年は残念ながら1隻態勢に戻しますが、17年以降に期待してください。

パネルディスカッション

ソフトとハードに課題 古屋  環日本海クルーズ推進 太田
寄港で大きな経済効果 水谷  民間の視点で港湾PR 赤井
市民の力でおもてなし 金子  船会社には早め営業を 斉藤
古屋
 日本はクルーズ人口100万人を目標に取り組みを進めています。北海道は魅力的な地域ですが、ソフト、ハード両面で課題もあります。パネラーの方々に、これまでのクルーズ客船受け入れの取り組みや、クルーズ市場の動向をお話しいただきます。
水谷
 今年、網走港にはプリンセス・クルーズ社の客船「サン・プリンセス」が12回寄港しました。うち11回は1泊2日で、想像以上の経済効果がありました。港には観光案内所を用意し、中国語や英語の通訳ボランティアが案内しました。タクシー会社では台数をそろえるため、非番の運転手にも出てもらったところもあります。戸惑いもありましたが、回数を重ねて、そうした乗客のニーズをつかむことができました。公衆無線LANサービスWiFi(ワイファイ)の利用希望が多かったので、これから一層の整備を進めようと考えています。
金子
 釧路港おもてなし倶楽部は、地元を訪れる旅客船を歓迎するために発足した団体です。今年は25回と入港回数が多く、カレンダーを作り、市民に周知しました。おもてなし面では、他団体と連携し、外国人向けに、和装・アイヌ文様切り絵体験・お茶会を企画し好評でした。ただ、物流港である西港への入港が多く、市街地からの距離が遠く、一般車両が貨物運搬車を渋滞させてしまうなどの苦労もありました。
太田
 日本海に面した富山県は、北東アジア地域との交流拡大が課題です。立山黒部の自然、世界遺産の五箇山など観光資源があり、地元の伏木富山港には12年から外航クルーズ客船が寄港しています。港と市街地を結ぶ無料バスを運行、外国語対応の観光案内所を設置しています。米国で開かれるクルーズ商談会への参加の他、知事自ら訪米して富山を売り込んでもらいました。今後は16万㌧級の客船に対応していくため港湾整備を進めています。
赤井
 クルーズ客船の寄港による地域活性化を研究しています。多くの乗客が船を降りて買い物をしたり交流したりするので、地元住民に港の重要性を理解してもらいやすい。その上、港での歓迎イベントなどを通して、地域活性化のため工夫を重ね、住民が団結するプラス効果もあります。そうした前向きな気持ちが地域再生につながっていくと考えています。
斉藤
 日本への寄港を望む海外の船会社は増えています。欧米人にとって日本文化は異質で興味深い。今後、(高級サービスが売り物の)ラグジュアリークラスの比較的、小さな客船の寄港も期待できます。北海道の現状はどうでしょう。今年は外国客船の道内への寄港は計104回でしたが、このうち84回がプリンセス・クルーズ社の2隻でした。それ以外の外国客船の寄港は20回と少ない。受け入れに当たって、まだ課題は多いです。


古屋
 海外での知事のPR活動は、北海道も学ぶべきことでしょう。これから必要になってくるクルーズ振興戦略について、さらに議論を進めます。
水谷
 例えばクルーズ客船の乗客は、網走市民に人気のすし店を知りたがりました。こうした地元密着の情報を伝えられる仕組みが重要です。北方領土問題の影響で、国後島、択捉両島間の国後水道を船が自由に通過できない規制など、国や道レベルで解決してほしい課題もあります。一方で、ラグビーワールドカップや東京五輪で来日する外国人に、クルーズ客船で道内を巡ってもらえるのでは、との期待があります。
金子
 クルーズ客船は霧などのため、市街地に隣接した旅客船ターミナルではなく西港に入るのですが、西港は交通手段が限られ、トイレもありません。そのため歓迎イベントに市民が集まりにくく、参加者は減少傾向にあります。今後は近隣企業の協力を得て、乗船客や市民に物流港の魅力を発信するイベントを前向きに検討し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を使った情報発信など、多くの人を巻き込む工夫が必要です。
太田
 海外の船会社のクルーズは中国・上海港の発着が多いです。売れ筋は4泊5日で九州や沖縄、韓国、台湾を巡る短期間のツアーですが、「差別化を」と長期の日本周遊ツアーを検討している会社もあります。北海道は中国人にも人気です。富山県は北海道と連携し、環日本海クルーズを推進したいと思います。
赤井
 寄港拡大に向けて各地域に求められる取り組みがあります。まず世界のクルーズ動向を調べた上で、米国マイアミでのクルーズコンベンションに参加するなど民間の視点を踏まえての効率的な港のPR体制を整えることです。周辺港との連携も欠かせません。PR活動を長く続けるため、財務の安定も大切。港の周りに商業施設をつくるなど、公益性を確保しつつ収益力を高めてほしい。そして、PR活動がもたらす費用対効果を、住民にしっかり説明しなくてはいけません。
斉藤
 クルーズ客船の誘致に取り組む場合、船会社は1〜2年前には予定を決めるので、早めに営業活動に着手する必要があります。クルーズは「ラグジュアリー」「プレミアム」「カジュアル」のクラスがあり、客層はアメリカ、欧州、アジアと異なります。観光地などについて相手が求める的確な情報を提供すべきです。さらにセールスポイントは分かりやすくないと駄目です。クルーズ客船のリピーターは南極やアマゾンなど世界中を回っています。北海道には素晴らしい自然がありますが、函館や小樽などは街も小さく、小型・中型客船が向いていると思います。北海道ならではの地域の魅力をうまく伝えて、船会社や乗客の満足度を高める努力をしてほしい。
古屋
 道民が実際にクルーズを体験し、何が求められるのかを自ら体験することも貴重です。来年以降、多くのクルーズ客船に寄港してもらえるよう取り組んでいきましょう。
古屋 温美氏
古屋温美氏
ふるや・あつみ 北大を卒業後、建設コンサルタント会社などを経て、07年から12年まで北大大学院水産科学研究院の特任准教授を務める。13年より現職。
水谷 洋一氏
水谷洋一氏
みずたに・よういち 早稲田大を卒業後、北海道農協中央会に入会、農協監査士を務めた。99年に網走市議会議員に転じ、10年から現職。現在2期目。
金子ゆかり氏
金子ゆかり氏
かねこ・ゆかり 北海道東海大を卒業後、建築事務所に勤務。09年の釧路港おもてなし倶楽部設立に伴い、副実行委員長に就任。1級建築士の資格を持つ。
太田 浩男氏
太田浩男氏
おおた・ひろお 北大卒業後、富山県職員に。12年から現職。小樽港も加盟する「環日本海クルーズ推進協議会」の一員として、クルーズ客船誘致に取り組む。
赤井 伸郎氏
赤井伸郎氏
あかい・のぶお 大阪大卒。神戸商科大経済研究所助教授を経て、11年から現職。著書は「交通インフラとガバナンスの経済学」(有斐閣、10年)など。
斉藤 正幸氏
斉藤正幸氏
さいとう・まさゆき 獨協大卒業後、東急観光に入社。11年に海事プレス社入りし、12年から現職。全国の自治体に外国客船の誘致戦略を助言している。