一般社団法人寒地港湾空港技術研究センター COLD REGIONS AIR AND SEA PORTS ENGINEERING RESEARCH CENTER

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シリーズ企画『北のみなとリレートーク』第1回

― 企画の主旨・目的


 港湾等の業界において、我が国の生産年齢人口の減少と若年層の理系離れによる技術者確保、働き方改革やワーク・ライフ・バランス向上の取り組みは喫緊の課題となっています。その上で、将来を担う若手や女性技術者の存在はより重要性を増しており、彼ら・彼女らの活躍を紹介することは、技術者の確保、職場環境を改善する上で、業界にとっても参考になるものと思います。
 このため、特に人数が少ない女性技術者を対象に、職場における活躍やワーク・ライフ・バランス等について焦点を当て、インタビュー形式で技術者を紹介します。
 なお、インタビュアー(聞き手)は、当センター広報委員にご就任いただいている3名の女性委員にお願いすることとしました。


― 出席者


阿部 奈緒美さん 室蘭工業大学を卒業し、2017年4月に北海道開発局に採用される。釧路港湾事務所、室蘭港湾事務所の勤務を経たのち、2021年から本局港湾空港部に勤務。現在は港湾建設課において、事業実施を担当しています。


稲葉 聖さん 函館工業高等専門学校を卒業し、2018年4月に㈱菅原組に採用される。魚礁工事等の現場を経たのち、2020年からICT推進室と現場の技術部を兼務しています。


― インタビュアー(CPC広報委員会委員。五十音順)

大畠 嘉織さん:㈱アルファ水工コンサルタンツ
神山 千佳さん:五洋建設㈱札幌支店
中島 康子さん:日本データーサービス㈱


~ 土木を選んだきっかけは

稲葉 私は、高専入学時に物質環境工学科に進みました。1年目に電気・機械・土木を学び、土木の設計図などが意外と面白いと思い、2年目から土木(社会基盤工学科)に変更しました。


阿部 小さな頃から工事が好きで、工事現場があればずっと見ていました。建築をやりたいという思いもあって、建築も学べる大学に入学しました。実際に学ぶうちに土木の方がやはり面白いと思い、この道に進みました。


~ 今の会社を選んだきっかけは

稲葉 最初は市役所などの公務員になろうと思っていました。けれど、高専での企業説明会で、菅原組の方が模型を作って工事の説明をしたことがとても興味深かったです。その後、現場見学に行き、この仕事が面白そうだと思い、菅原組に入社しました。


阿部 最初は公務員になるつもりはありませんでした。実際に仕事の内容を知り、教授からも「阿部は公務員に向いている」と言われ、北海道開発局に入りました。今では、仕事が楽しく、公務員になって良かったと思っています。


~ 自分が携わった現場の感想は

稲葉 魚礁設置工事はブロックを水中に入れてしまうと、その後の状況を見ることが出来ないことが寂しいです。そのため、岸壁工事に携わった時は、嬉しくて「あれを造ったの!」と友達みんなに言っていました。


阿部 釧路港湾事務所に勤務していた時、バルク岸壁が完成し、完成式典まで携わりました。また、規模の大きなケーソンを製作し、それを据え付けてどんどん延長を延ばしていく様子など、目に見えて施設が出来上がっていくことが楽しかったです。


~入社2~3年後、辞めたくなるような時期はありませんでしたか

阿部 辛いことはもちろんありましたが、仕事が楽しく、工事が好きで楽しかったので大丈夫でした。


稲葉 日曜日など皆が遊んでいる時に、自分は長靴を履きヘルメットを被り、仕事をしている。それが雨の日だと余計に「自分は何をやっているんだろう」と思ったことはありました。でも、ここで辞めても全てが中途半端だと思い仕事を続けていたら、そんなに辞めたいと思うことは無くなりました。


~今までで一番辛かったことは

阿部 自分が仕事を思うように出来なく、調整が上手く行かないことなどで、どんどん仕事が溜まったときです。あとは人間関係など。


稲葉 私の場合は、精神的に辛いというより、朝3時や4時に起きて、車を2時間運転して現場に行くときです。


~女性特有の問題はありますか
現場は危ないので、女性は行くなと言われたことなどです

稲葉 神様が怒るので海や山に女の人は行かせられないと言われたんだよね、と友達から聞いたことがありました。もちろん、お清めなどは大事だけれど、それなら何も出来ないじゃないかと感じました。


阿部 先輩女性の方々は、昔、現場に入って来るなと言われたことがあると聞いたことがあります。


稲葉 ハラスメントを気にし過ぎて、気軽に話をしてくれない方が結構増えています。「ハラスメントになるから何も聞けない。今は好きな食べ物を聞くのも駄目なんだろう?」みたいなことを言われて、「そんなに気にしないですよ。それは極端ですよ。」と返すのです。私たちが思っている以上に、男性は気にしているのかなと感じています。


~残業は多いですか

阿部 今は、時期的に本省に提出する資料の集計やチェックで残業があります。ですが、それを過ぎれば少なくなると思います。


稲葉 朝早くからの勤務の日は、その分少し早く、16時頃に帰ることができるので、仕事と生活のバランスは取れています。本社にいるときも、残業はほぼないので、遅くまで残るのは年に数回ほどです。


~休暇は取りやすいですか

稲葉 休暇は取りやすいです。今は、二人体制の職場ですが、お互いに休暇を取りたいときは遠慮しないで休もうという良い関係で、ありがたいです。
また、我が社は有給休暇の他に、健康休暇や結婚休暇などの特別休暇も備わっています。それ以外に、勤続年数に応じたリフレッシュ休暇などがあります。私はいろいろな休暇を合わせると、年間20日程度のお休みをいただいています。


阿部 今の職場は有給休暇を年間15日取りましょうという目標を掲げているので、昨年は18日休暇を取りました。普通の有給休暇は年間20日与えられますが、周りにはそれを使い切る方もいます。


~資格取得やキャリアアップはどうしていますか

稲葉 会社からは、まず2級土木施工管理技士を取得しなさいと言われていました。それを言われたのが、ちょうど仕事を辞めたいと思っていた時期でした。でも、ここで一発で合格したら、もしかしたら、自信につながるかもしれないと思い、仕事帰りにモスバーガーや図書館に行って勉強し、合格することが出来ました。また、1級の技士補も1回で合格しましたが、一発で合格して自信を持ちたいという意地で勉強していました。


阿部 資格試験は仕事に係わることばかりなので、受験は良い勉強になると思っています。職場では技術士受検の「圧」が強いです(笑)


~企業や官庁でインターンシップの取組を行っていますが、その時の工夫などをお聞かせください

稲葉 私は会社で若い方なので、年齢が近いということを学生にアピールしています。「仕事大丈夫ですか?」、「仕事がきつく、給料も安いですよね?」とよく聞かれますが、「そんなことは無いよ、キツイ時もあるけれど、ちゃんとメリハリがあって、仕事が無いときは長期休暇も取れるし、現場が終われば丸々一週間休んで旅行にも行けるよ。」ということを伝えて、学生と社会人のギャップを埋められるよう工夫しています。でも、伝え方はすごく難しいです。


阿部 インターンシップや官庁説明会では、年齢が割と近いので、説明を任される時があります。どこまでギャップを埋めれば良いか迷うことがあります。良いことを言い過ぎて後からギャップが大きくなっても困りますし、リアル過ぎる説明もどうかなと。


~将来の夢など、こういうことをやってみたいという希望をお聞かせください

阿部 私は、特に築港課長や事務所長など、ここまで昇進したいというのはありませんが、管理職は管理職ならではの仕事があります。そういう仕事をいずれはやってみたいです。そうなるようにしっかり仕事をしたいと思っています。また、私は欲張りなので何でも経験してみたい。計画業務にもいずれは携わりたいし、もちろん現場も。そうして経験を積む中で自分の得意分野を見つけて特化したいので、今は何でも経験していけたら良いと思っています。
それから、港が大きくなって船がたくさん入ってくれば、地域の経済も潤うと考えているため、もっと港が発展できるよう尽力できれば良いと思っています。


稲葉 私は、管理職になりたいなど、まだそういう大きな夢は全然ありませんが、業界のイメージを変えていきたいと思っています。企業説明会やインターンシップに来てくれる子が「仕事きついのですよね?」、「残業がすごいですよね?」、「やっぱり泥だらけですか?」といった、土木イコール「汚い・きつい」みたいなイメージを結構持っています。だから、「意外とそうじゃないんだよ」というところを広めて、女性技術者を増やしたいと思っています。女性が土木の会社に入るとなると、女性の先輩がいないと入りにくいというのをよく言われます。そのため、自分の会社だけではなく、他の会社も女性技術者が増えればよいと思っています。


~ 長時間にわたり、いろいろなお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。話し足りなかったことは、交歓会でお聞かせください。喉も乾いたと思いますので、「泡」で喉を潤おしましょう。


座談会の様子


― インタビュアーからひとこと


大畠委員:これからを担う二人のお話しを聞くことができ、この業界の未来もまだまだ明るいと感じました。就活生には、お二人の話を聞き、この業界の仕事の魅力を知って欲しいと思っています。本日は楽しく貴重な時間をありがとうございました。


神山委員:新企画という事でインタビューする側としても不安でしたが、そんな心配は不要でした。
同じ業界に勤めている者同士、話も弾み、有意義なお話をたくさん聞けて、港の未来は明るいと感じました。
今後もたくさんの女性技術者のお話を伺い、港の輪を大きく広げていきたいと思います。


中島委員:若いお二人の、仕事への思い、未来像をお聞きして、大変心強く思いました。お二人のような技術者が、生き生きと働き続けることのできる業界であることを願っております。本日は楽しい時間をどうもありがとうございました。


前列左から稲葉さん、阿部さん
後列左から大畠さん、神山さん、中島さん


― 編集後記
 2時間ほどの座談会でしたが、出席者とインタビュアーとの会話が途切れないほど、多様な話題でトークしてくださいました(もちろん、交歓会も)。紙幅の関係で全文を掲載できませんが、若手の仕事への向き合い方、企業や官庁の職員に対する取組みも参考になりました。
座談会に出席いただいた阿部さん、稲葉さん、そして3名の広報委員にお礼申し上げます。
次回の「北のみなとリレートーク」もご期待ください。